次回の制作物の都合があって久しぶりに矢野顕子さんのSuper folk songのDVDを見ました。
この作品には色々な思い出があるのですが、その中から彩さんの話を・・・
Super folk song は矢野顕子さんのピアノ弾き語りを一発録り、編集なしで記録したCDで、DVDはそのレコーディングの様子を記録したものです。
2016年の今、彩さんとアルバムを制作していますが、彼女と仕事を始めてかれこれ10年近い月日が経とうとしています。2008年、彼女が在籍していたBloomというユニット(ボーカル/叶友理子 ピアノ・コーラス/彩)でSongsというアルバムのを発表したのですが、制作を決めた2006年、僕がイメージしたのがまさしくSuper folk songだったのです。
一発録りのセッションは、とことんまで自分の音楽と向き合う本当に厳しい作業です。
その厳しさはSuper folk songのDVDを見ているだけでひしひしと伝わってきます。
そして、それ以上にそれを乗り越えた時に現れる音楽のしなやかさは言葉には表せないほど素晴らしいものです。
とはいうものの、まだまだ経験の少ない二人にいきなりのチャレンジは厳しすぎるということで、準備期間を設けることにしました。
当時彼女たちは月に3〜4回、神奈川周辺のカフェでライブをやっていましたので、そのライブの中で録音する曲をブラッシュアップすることにしたのです。
準備期間は結局2年以上に及びました。
彼女たちは音楽を磨き上げ、僕はその頃担当していた「ぴあのピア」という番組の収録に参加しながらアルバムにふさわしいピアノの録り方を模索しました。
そして2007年の秋、埼玉県松伏町の田園ホールエローラで、涙あり、笑いありの3日間のレコーディングを経て生まれたのが
SONGSというアルバムです。
このアルバムはヒットこそしませんでしたが、本当に多くの方に愛されるアルバムになりました。
「何度聞いても飽きない」というご意見が本当に多かったです。
そして、DJの大沢悠里さんが3年連続で4月の桜の満開の朝に「桜雪」という曲を流してくださったのも素晴らしい思い出です。
4年後の2010年、Bloomは解散して彩さんはソロ活動に入ります。
彼女のソロ活動の本格的なスタートです。
その年の8月、横浜駅のイベントスペースで行われたライブ、
ソロ・デビューを目の前にして、開演前の控え室で押しつぶされそうなプレッシャーに必死に耐えていた姿が今も忘れられません。
それからも定期的なライブ、レコーディングの中、彩さんは色々な試行錯誤を繰り返しながら自分の声、音楽に磨きをかけて行きました。
自分の求めるイメージに妥協せず、くじけることなく、常に自己と向き合いながら音楽を磨きあげる姿は音楽を仕事にする者として本当に尊敬すべき姿勢だと思います。
デビュー曲「七つの海」が活動開始から8年目の作品であることや、プロデューサーである僕の方針でライブを極端に減らして、スタジオでの作業が主体になっている現在の彩さんですが、ここに至るまでにはこんなストーリーがあったのです。
現在制作中のアルバムは独り立ちしてから6年間、じっくりと温め続けた曲が収録されています。
その間には大きな震災もありました。
ミュージシャンとして揺れ動いていた時期、被災地に旅に出たこともありました。
そんな苦しい時期にも、しっかりと自分を向き合いながらミュージシャンとしての答えを出していく・・・
そんな姿が刻まれたアルバムになっていると思います。
かなり端折った説明ですが、彩さんとの10年間をふと思い出したので書いてみました。
新しいアルバムは彩の音楽に可能性を感じてくださっている周囲の皆様のご協力、素晴らしいミュージシャン仲間に囲まれて、彼女の10年間の活動の節目になる素晴らしい内容になると思います。
リリースを楽しみにしていてください。
2016/05/10 VIVID productionsCo.,Ltd
西本憲吾