クラシックのCD制作のための録音において、ホール選びは重要な要素です。
クラシック音楽と「響き」は密接な関係にあります。
先ずは演奏する環境として音楽に適した「響き」があることは、演奏のクオリティに大きく影響します。
説明するまでもないと思いますが、豊かな響きの中で響きの助けを借りながらのびのびと演奏することは録音の本来の目的である「理想の演奏を記録する」という点において非常に重要です。
以下、録音とホールについて思い当たるところを書いてみようと思います。
☆ 試奏
候補のホールが決まったら試奏に行ってみることをお勧めします。
公が運営するホールですと1区分を借りることが必須になる場合が多いですが、メインとなる楽器を持参していただいて
・演奏しやすい響きか?
・響きが気に入ったら自分の楽器がよく鳴る、演奏しやすいポジションを探しておく。(録音当日の時間短縮につながります)
・ピアノを使用する場合、ピアノのコンディションなどを確認する
・一区分借りる場合は簡単な録音設備を持ち込んで、ざっくりとした録音のチェックを行う。
などのチェックを行うことで本番の進行がスムーズになり、安心してレコーディングに臨めます。
☆反響版
反響版の仕様について確認します。
反響版は天井部分の「天反」、後ろの壁の部分の「正反」、左右の「側反」の3つのパートに分かれます。
この天反、正反、側反をが固定されていて反響板を使うか使わないか?の2択になってしまうホールと天反、正反、側反を自由に動かせるホールがあります。
演奏にとっては十分な響きのホールでも、録音してみると響きが多すぎて音が「濁ってしまう」ホールが多数あります。
天反、正反、側反の3つの反響版が自由に動かせるホールだと反響板の位置を微調整して響きの量をコントロールすることができるので
演奏と録音の折り合う響きの量を調整することができ、より良い結果を得ることができます。
☆季節
録音に適した季節は春か秋が望ましいです。
響きの質は、その「消え際」まで綺麗に収録されているかどうかで印象が変わります。
録音の際に空調を切るというのは、空調のノイズで響きの消え際が聞こえなくなってしまうことを防ぐ意味が大きいのです。
夏と冬の場合、空調を切ったとしてもホールの他の施設が空調を使用している場合、ホールと外の部屋の温度差によって空気の移動が始まってしまいます。
この時、ホールのドアの隙間などで「風切り音」が発生して響きを殺してしまう結果になってしまいます。
以上のような理由でホールのある建物全体で空調の使用が少ない春と秋が録音に適していると思います。
☆周辺施設
レコーディングという作業は演奏する「体力」もそうですが、自分の音楽と真正面から向き合う精神的にもかなりの負担を強いる作業です。
録音で求められるものは「間違いのない演奏」ではなく、演奏者の「音楽」です。
限られた時間の中で「間違いのない演奏」を求めてひたすらに演奏し続けるケースも多いですが、集中して演奏。たっぷり休憩を取る。を繰り返す方が良い結果が得られることが多いです。
そのためにもホールの周辺に落ち着ける喫茶店があったり、おいしい食事が取れるお店があることは実は重要なことだったりします。
ホール選びは予算もさることながら、以上の様な点に留意していただければ本番の時により良い結果が得られると思います。
(上の写真は側反を開けて録音している様子です)