🎼 VIVID Productions 録音理念(決定版)
——「音を録るんじゃない、音楽を録るんだ」から始まった30年の哲学
■ 師匠からの最初の言葉
私が録音の世界に入って間もない頃、
師匠からこう言われました。
**「俺たちの仕事は音を録るんじゃない。音楽を録るんだ。」**
若い頃の私は、この言葉の意味を
“わかったつもり”でいました。
当時の私は、
良い音とは 自分がかっこいいと思う音 のことだと信じ、
音を太く、派手に、美しく録ることばかり考えていました。
■ 5年後に言われた、もうひとつの言葉
仕事始めて5年後のある日の録音
演奏の空気や気配、心の動きを感じながら録音に向き合っていた時のことです。
終了後、師匠は静かにこう言いました。
「君もやっと音楽が録れるようになったね。」
その瞬間、私は
“音を良くしても音楽は良くならない”
ということの意味を初めて理解しました。
そこから私の録音観は、大きく変わり始めました。
■ 良い音とは「素敵な音楽を伝える音」
経験を積むほどに、
私は“良い音”の意味をこう捉えるようになりました。
良い音とは、素敵な音楽を素敵なまま伝える音。
決して
かっこいい音や、派手に加工された音ではない。
良い音の本質は、
音楽が伝わるかどうか
ただそれだけです。
そのためには、
- 演奏者の心の動き
- 曲の背景
- 空間の響き
- アンサンブルの呼吸
- 演奏者が抱く「理想の音像」
これらすべてを理解し、寄り添う必要があると気づきました。
■ 録音は手軽になっても、演奏者にとっては“非日常”である
スマートフォンでも録音できる時代になりました。
しかし、録音される側のミュージシャンにとっては、
録音は今も 特別な非日常です。
- 間違えてはいけない
- 緊張で本来の表現が出ない
- 「残る」というプレッシャー
- 一生に残る作品になるかもしれない不安
録音エンジニアにとっては日常でも、
演奏者にとっては“勝負の場”です。
だからこそ私は、
録音前の対話と打ち合わせを何より大切にしています。
■ 録音前の対話 —— 音楽を開く鍵
録音前に、必ずミュージシャンと話をします。
- 今回どんな音楽を描きたいのか
- どんな音のイメージを持っているか
- 不安は何か
- フレーズの方向性
- 音楽的な狙い
- 空間の好み
- どう録られたいか
この対話があるだけで、本番の演奏は驚くほど変わります。
演奏者は安心し、
本来の音楽が自然に現れ始めるからです。
録音は、技術ではなく
人と向き合う時間から始まると確信しています。
■ Fidelity(忠実度)という考え方 —— 3つの軸
録音の世界には長く
Fidelity(忠実度) という概念があります。
その中心にあるのは以下の2つでした:
① Audio Fidelity(オーディオ・フィデリティ)
= 音響的な忠実度
- 周波数特性
- 解像度
- ダイナミックレンジ
- 歪みの少なさ
- S/N比
録音技術の向上によって、この部分はほぼ飽和しています。
しかし、音が正確でも、
音楽が伝わるとは限りません。
② Score Fidelity(スコア・フィデリティ)
= 楽譜への忠実度
- 楽譜通りの音価
- 表示の強弱
- テンポ
- 作曲家の指示
クラシックにおいて非常に重要ですが、
これもまた音楽の核心には届きません。
■ VIVID Productions が重視する新しい概念
③ Image Fidelity(イメージ・フィデリティ)
—— 心の像への忠実度(あなた独自の録音哲学)
演奏者は音を出す前に、
すでに 心の中で理想の音を鳴らしています。
- 音色の方向
- フレーズの温度
- 空間の響き
- 呼吸の流れ
- 感情の動き
- メロディの重さと軽さ
これらは測定機器では捉えられません。
しかし、
これこそが録音が忠実であるべき対象です。
私は、この“内的音像”への忠実度を
イメージ・フィデリティ(Image Fidelity)
と名付けました。
これは Audio Fidelity と Score Fidelity では
絶対に表現しきれない、
録音の第三のフィデリティです。
■ 録音とは、音を並べる作業ではない
—— “芸術の翻訳者”としての仕事
録音とは、
エンジニアの好き勝手に音を組み立てる作業ではありません。
- 演奏者が心に抱く理想の音像
- 作品が持つ本質
- 音楽が生まれる瞬間の気配
- 空間の温度
- 演奏者の呼吸
これらを受け取り、
音として翻訳し、未来へ届ける行為です。
録音エンジニアは、
技術者であると同時に
芸術の共同制作者であるべきだと考えています。
■ 結び —— 師匠から受け継いだ言葉が今でも私の中心にある
録音とは、人と向き合い、
音楽と向き合う仕事です。
技術ではなく、心の理解から始まる仕事です。
そして、私が今でも胸に刻んでいる言葉があります。
「音を録るんじゃない。音楽を録るんだ。」
若手の頃には理解できなかったこの言葉は、
今では私の録音哲学、
そして VIVID Productions の理念のすべての中心です。
これからも私は
音の奥にある“音楽そのもの”を録るために
耳と心を傾け続けます。