今回のセッションの最大の難関、箏とピアノの録音。
この二つの楽器は絶対的な音量差がありすぎるため、同じ場所で同時に録るなんて普通では考えられない事なのだが、今回はあえてチャレンジしてみる事にした。
朝9時にホール入り。
調律のKさんと昨日までに収録した箏の音をチェックしながら、どの様な調律にするかを打合せ。
Kさんが調律をしている間に箏のポジションに設置したマイクにそのくらいの大きさでピアノの音が入ってくるかなどをチェック。
2時間の調律の間、こちらも色々な事をチェックして”何とかなるだろう”と言うところまで色々な事を追い込んだ。
11時、箏のKさんとピアノのHさんが到着して早速演奏が始まる。
この時点で3つの問題が明らかになった。
先ず位置の問題
録音、演奏共にここならば大丈夫だろうと考えて箏とマイクをセッティングした場所ではお互いの音が聞こえない。
これは至急位置を変更して解決。しかし録音にとってはリスクが大きくなってしまった。
2つ目はピアノの音色。
予想していたよりも楽曲がポップスよりのアレンジだったため、急遽調律のKさんにお願いしてピアノの音を少し明るめにして貰った。
車輪の向き、ちょっとした操作でピアノはがらがらと表情を変える。その繊細さもそうだが、それを知り尽くして見事にコントロールしてくれるKさんにはいつも脱帽物だ。
3つ目は音量差。
やはり音の大きいピアノの音が箏のマイクに沢山入って来て、それがピアノの音の”濁り”の原因になる。
これを解決するにはピアノの蓋を閉じて絶対的な音量を下げるしかないのだが、いわゆる”半開”状態ではピアノの音そのものにダメージが出る。
そこで、予め用意した別のつっかえ棒で、全壊と半開の中間の空き方になるように調整。
これで音量、音質と共に満足のいく結果を得た。
この様なセッションでは録音サイドのチェックのために十分な時間を割く事も出来ないため、録音の最中にも細かな手直しが必要になる。
1曲目に関しては僕もそれに捕らわれて、全体的な事を見渡す余裕が無くなってしまった。
ちょうど、昨日からディレクションを少しづつ任せていたアシスタントのM君が大活躍してくれて、セッションを上手く取り仕切ってくれた。この一件で彼もミュージシャンから大きな信頼を得る事が出来て良かった良かった。
無事1曲目を取り終えて昼食。
ピアニストが交代して残り2曲。
最後の1曲になる頃に、箏の調子が悪くなってしまった。
予備に持って来て頂いていた箏を出して最後の曲の収録。
この箏はKさんが3歳の時にお母さんに買って貰った初めての事で、その素朴な響きがとても心地よかった。
CDでは最後に入るこの曲は、今回のセッションに於いてもとても美しいエピローグとなった。
19時半、全ての楽曲を収録終了。
撤収を終えて21時にホールを後にする。
安心感からかどっと疲れが出てしまって、倉庫までの道のりがいつになく長く感じられた。