録音において「良い音ってどんな音?」
って聞かれた時にどう答えるか?
一言で言えば
「音楽性を反映している音」かな?
喜怒哀楽、情熱、躍動感、哀愁・・・などといった言葉にならないイメージを伝える役割が音にはあると思う。
楽しく奏でた音は楽しく聞こえるし、悲しく奏でた音は悲しく聞こえる。
気持ちのこもっている音は人を惹きつけるし、その逆もある。
ただ、メディアに乗る音について、音はその一部をマイクロホンで切り取られて音ではない電気信号に変換され、1とか0という数字に変換され、それらは電波やディスクに乗っかってリスナーの元へと届く。
つまり、僕たちがスピーカーから聞いているのは「現場で鳴っていた音を連想させるための音」
でしかないわけだ。
それは疑似体験であり、事実を丸ごと体験しているのと全く違う。
ただし、疑似体験においては処理や加工というプロセスを通せることによって音に託されたイメージや感情を注目させたり、ブラッシュアップさせることができるのも事実だ。
要するにリスナーが、その疑似体験を経験した時に送り手と同じイメージを共有できるかどうかが大切なポイントとなり、音の良し悪しはその一点で決まると思う。
ある時は透き通っていて、ある時は汚く汚れていて、ある時は耳を澄まさなければならないくらい小さかったり、またはその逆だったり・・・・
良い音のあり方は伝えたいイメージに従って千差万別で良い。
音楽においては、演奏者もレコーディングエンジニアも音楽という「イメージ」を伝達するために介在する人間であり、その意味においてはイメージを余すことなく受け取れる感受性を持ち、受け取ったイメージを具体化する確かな技術を持っていることが必要だ。
何年か前、ニューヨークで活躍するベテランエンジニアに
「僕の仕事はミュージシャンの頭の中で鳴っている音をスピーカーから鳴らすことだと思う」
と言ったら
「ミュージシャンはそんなこと考えてないよ」
って笑われたことがある。
でも、僕のこの意見だけは絶対に間違っていないと今でも思う(笑)